●スポーツ(競技)を始める前に

Q1  
 最近、“突然死”などという言葉をよく耳にしますが、スポーツをしていると、そのような事故につながる危険性はどのくらいあるのですか。また、未然に防ぐにはどのようにすればよいのでしょうか。

 
A1  
 スポーツは、気楽に仲間とプレーし、本人自身が楽しみながら健康な体力をつけていくのが理想と思われます。しかし中には、勝とうと思う意欲が厳しいトレーニングを要求し、強いては事故につながるケースがあります。現実に、運動による死亡事故の発生率はどれくらいでしょうか。学生については、日本体育・学校保健センターのデータを基にした解析結果では、幼稚園から高校までの学生の事故発生率は10万人当たり0.4人〜0.6人と思われます。この中で大半を占める心臓性急死は運動中、後に90%〜100%の発生をみました。また高学年になるほど激しいスポーツを行うためか、発生頻度の増大傾向を示しました。富山県内の小・中・高校生の学生総数は20 万人前後でありますから、この解析結果により、富山県では1年間に学生1人が事故に遭遇する程度と思われます。社会人の運動と関連した突然死は、村山らによると年間10万人あたり0.74人で、富山県にあてはめた場合、運動可能な20〜50才代は約20 万〜30 万人と思われますが、普段運動を楽しむ人は20 〜30 %以下と思われ、1 年間に事故に遭遇する人は1 人あるか否かと思われます。以上より富山県内で発生するスポーツ事故は年間1〜2名であり、非常に少ないと思われます。

 また急死した症例の基礎疾患については、学生・社会人の急死はほとんどが心臓疾患であり頭部血管障害がこれに続きます。潜在的に器質的心疾患を持っていて運動が誘因となって急死した症例が幾らかみられます。しかし、急死の原因をみきわめるため病理解剖を行っても、その原因が不明の症例がいくつかあります。健康診断、メディカルチェックを行ったとしても完全にスポーツ事故を防ぐことはできませんが、スポーツ事故の減少のために必要と思われます。

 図1は学生についての運動が関与した心臓性急死の発生時間帯別状況を示しています。この図より9時〜11時、15時〜16時に多く発生をみました。富山県内で発生した昭和56年度〜昭和63年度の学生の心臓性急死例も図に含めてみました。この図より午前中に事故が多く発生していることがわかります。人間の身体はサーカディアンリズムというひとつのリズムの中で体内の環境を整えています。午前中に事故死が多いということは、午前中のトレーニングはサーカディアンリズムから不向きであると考えられます。午前中に激しいスポーツをするのであれば、十分な準備運動、整理運動が必要です。



図1
学生の運動が関与した心臓性急死の
発生時間帯別状況
(昭和58年度〜昭和60年度)

 

 

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