●息切れ・呼吸困難

Q11  
 足のけがのため入院し、ベッドでの生活が長くなり、退院後も練習から離れていました。その後運動を再開しましたが、すぐに息切れをおこし、体力の低下を感じます。 もとにもどるのでしょうか。

 
A11  
 運動不足病といわれるもので、トレーニングにより回復していくものと思われます。運動に伴う息切れや呼吸困難は循環器と呼吸器系に関わってくる症状で、運動の限界を示す一つの症状ですが、健常者と疾病を持っている人ではその意味合いは異なります。

 循環は心臓ポンプ作用によって血管内の酸素、栄養素、ホルモンなどを組織に送り、組織の代謝産物を持ちかえる働きをします。身体活動時には多くの骨格筋の激しい活動のために、多量のエネルギーを長時間にわたって発生させることが必要となり、骨格筋での酸素の需要が高まります。この酸素の需要に応じるために呼吸器と循環器とは一体となって、酸素輸送系として働き、健常者の場合、安静時は呼吸器も循環器も十分余裕を持って働いているので息切れや呼吸困難は感じません。酸素輸送系の働きは酸素摂取量として示されます。身体活動が増すにつれて酸素摂取量も増加しますが、酸素摂取能力には限界があり、あるレベル以上に身体活動を上げても酸素摂取量はピークに達してそれ以上増加しなくなります。この酸素摂取量の限界値を最大酸素摂取量と呼び、酸素輸送系の機能を示す指標として用いられています。この最大酸素摂取量は運動筋への酸素供給量と、運動筋での酸素利用能により決定され、前者は心拍出予備力と血管拡張能により、後者は運動筋の量と有酸素性代謝能によっています。最大作業時の1分間の心拍出量はトレーニングによってもほとんど変わりませんが、心拍数の増加は抑制されるので心臓の1回あたりの血液の拍出量は増加します。また心臓の容積も増加し、長時間持続する心臓への負荷に適応しています。一方呼吸器系では肺換気量は安静時の10倍以上の余裕があり、健常者が激しい運動をした時は、肺換気および肺拡散は酸素輸送に関しての限界因子にはならないとされています。したがって呼吸機能は循環機能ほど重要視されていません。

 しかし、最大肺換気量、最大呼吸数、最大肺拡散能はトレーニングにより増大することも知られています。図1は、長時間ベッドレストを保った時とその後のトレーニングでの最大酸素摂取量の変化を調べたものですが、ベッドレスト(運動不足の極端な場合)により最大酸素摂取量は減少し、トレーニングによりベッドレスト前を上回る値を得ることができました。この効果は平素トレーニングをしていない人ほど大きく、健常人での息切れは運動不足であり、これはトレーニングにより改善できるものと思われます。また、柔道の山下選手がけがのため長期に休養をとったところ、レントゲン写真での心臓の大きさが小さくなったと報道されていましたが、まさにトレーニング効果の反対のことと思います。 

 しかし、一見健常人と思われても病的な要素もあることを忘れてはいけません。つまり、若い人なら心筋症、不整脈や運動誘発性喘息などがあり一度医療機関でのチェックも必要です。また、家族内に突然死の人がいる場合も同様です。特に運動をはじめてまだ日が浅い人や、長期間運動をしてきた人でも急に息切れや呼吸困難が出現してきた時は注意が必要です。さらに肺機能をできるだけ正常に保つためにも禁煙は言うに及ばないところです。

 

 

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