肉離れ

Q26  
 昨日、短距離走でダッシュした瞬間ピリッとした音を大腿後部に感じ激痛が走りました。応急治療と今後の運動の進め方、予防の方法について教えて下さい。 (25歳、男性)

 
A26  

 いわゆる肉離れとは、筋線維の一部の断裂、あるいは筋肉の膜の断裂のことをいい、筋が完全に断裂する筋断裂とは区別します。けがなどの外傷によるものではなく筋肉に予期せぬ力が加わったり、引き伸ばされたり、疲労したあげく無理をした時などに生じるものです。スポーツ種目によって発生部位に特徴があり、短距離走では大腿後部、跳躍では大腿前面、体操では大腿内側、バレーボールでは腹部に多くみられます。症状は突然筋肉につったような痛みが走り、筋活動は不可能になります。また局所には運動痛、圧痛があり出血と腫れがみられます。


《処置》

 急性期(受症直後の処置)回復期(後療法)に分けて考えます。

 【急性期】
  肉離れを起こした直後は、損傷や出血を拡げないように発症から48時間以内は安静、冷却、圧迫、挙上(RICE)を
 徹底します。

 【回復期】
  損傷の程度にもよりますが、発症2〜3日後より局所の循環回復をはかり損傷した組織の修復を促します。

 実際は、温熱療法や軽いストレッチングを始め、自発痛、圧痛、動作時痛、ストレッチング痛をみながら運動を開始します。自発痛消失はストレッチング開始の、圧痛や動作時痛消失は軽いジョギングの、ストレッチング痛や抵抗運動痛の消失は運動負荷の強度を上げていく目安としてください(表1)。軽傷では3週間、中等症では6週間が後療法の目安となります。治療は消炎鎮痛剤の服用、消炎外用剤を使用し局所に血腫(血の塊)を作った場合は血を抜く必要もあります。まれに損傷部に石灰化を生じ手術的に摘出しなければならないこともあります。

《予防》

 肉離れの原因として (1)筋肉の柔軟性低下、(2)筋力低下、(3)ウォーミングアップ不足が考えられます。したがって肉離れの予防は筋肉の予備能力を高めることにあります。

(1)筋肉の柔軟性低下を予防するために運動後の筋肉の炎症、疲労、疲労物質の蓄積による拘縮を早期に除去する
 必要があります。そのためにアイシング、マッサージ、ストレッチングを行います。
(2)肉離れの発生頻度が高い筋群を中心に筋力強化を行いますが瞬発力、持久力いずれについても向上を目指し
 左右差、拮抗筋とのバランスも改善させます。また求心性筋収縮のトレーニングのみでなく受傷時の収縮様式に
 多い遠心性筋収縮のトレーニングも行うことが望ましいと考えられます。
(3)ウォーミングアップとしてストレッチングが勧められます。

 これだけの予防を十分に行っても肉離れはスポーツ動作の限界に近い状況で発生するので、普段から各自の筋力を熟知しコンディションを整えておくことが重要だと思われます。

《鑑別疾患》

 筋断裂、腱断裂、靱帯損傷

表1 下肢肉離れの後療法

発生直後

 
      RICE

第1段階

約48時間後、自発痛軽減
      軽度の自動運動(歩行、エルゴメーターなど)

第2段階

自発痛消失、歩行可能
      自動運動強化(エルゴメーターなど)

第3段階

圧痛軽減、歩行時痛消失
      ジョギング開始

第4段階

圧痛消失、ストレッチング痛軽減
      ハーフダッシュ

第5段階

ストレッチング痛、抵抗運動痛消失
      ダッシュ、ジャンプ、筋力トレーニング80 %

第6段階

前段階にて疼痛再発なし
      筋力トレーニング100 %

完全復帰

 

 

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