富山県生涯スポーツ協議会設立20周年記念講演

●日時 平成23年2月5日(土)16:40〜17:50
●場所 富山電気ビル5階 中ホール

  演 題
  100歳まで元気に生きるために

順天堂大学大学院加齢制御医学講座教授
白澤 卓二

はじめに

 皆さん、こんばんは。三浦敬三さんは、ゴールデンウィーク明けに立山を滑るのが恒例となっていました。敬三さんが100歳の誕生日を迎えた年の2004年に私がNHKスペシャルで老化に挑むという番組を作ったことから、今日はこちらに寄らせていただきました。

 私の今日のお話は「100歳まで元気に生きるために」というタイトルです。

宝くじに当たるよりも高い確率で100歳の誕生日を迎えられる


 今、日本には100歳以上の人が4万4000人位います。100歳以上の人口が、世界で爆発的に増えているのが日本と韓国なのです。ちなみに、皆さんが100歳の誕生日を迎えられる確率は200分の1で、宝くじに当たるよりも高い確率で100歳の誕生日を迎える可能性があるということを頭の中に入れておいてください。

 しかし、100歳を迎えている人の8〜9割が寝たきりなのです。また、その8〜9割が女性ということです。寝たきりで100歳を迎える確率が高いということをよく頭に入れ、いかにして景気な1割に入ることができるかを考えてください。

 
   
最も長生きしたフランス人女性カルマンさん


 この世の中で最も長生きした人のエピソードを紹介したいと思います。

この人は122歳まで生きました。1875年、フランスのアルルという町で生まれ、1997年に亡くなり、引き算すると122歳。この写真は120歳の誕生日のもので、『ネイチャー』という科学総合誌の表紙を飾り、世界中のマスコミがこのアルルという小さな町に行ってインタビューをしました。

このインタビューで最も印象的だったのは、「長生きの秘訣は何ですか」という質問に対して、カルマンさんが「病気をしないことが長生きの秘訣だ」と答えたことです。きわめて分かりやすい答えです。

 次の写真は娘さんとのツーショット写真で、娘さんが20代、カルマンさんは40代後半です。カルマンさんは、前から見ても横から見ても20代にしか見えません。「ローマは1日にしてならず」と言いますが、いきなり70、80、90歳になってバリバリになるというのではなく、若いころの積み重ねが百寿につながったと言うことです。

100歳で元気な人は、40〜50代でアンチエイジングしている


  カルマンさんは85歳でフェンシングを始めました。40歳分アンチエイジングしていたと仮定して、85から40を引いて、45歳でフェンシングをしたと言われると驚きますよね。いかにカルマンさんがアンチエイジングしていたかということが分かると思います。

  100歳で元気な人というのは、40歳、50歳、60歳と、若いころからすごくアンチエイジングして、その結果として、長寿とかサクセスエイジングになっているということなのです。つまり、中年、高齢期、こういう時期が非常に大事で、そこを通過して100歳で元気だということになるわけです。これを介護予防というのです。

  介護予防とは、介護を受けなくていいということなのです。介護の対象にならない、介護を予防するという考え方、自立しているということです。カルマンさんの例で分かるとおり、それは生涯現役だということです。これを我々はサクセスフルエイジングと言っています。

 また、100歳の誕生日を迎えた時、自分がベッドに寝ていて家族が誕生日を祝っている、これがアンサクセスフルエイジングです。つまり、中年の時期に若々しくエイジングしていった人が介護予防できているということです。カルマンさんが言っていた「病気にならないこと」、まさしくこれが介護予防であり、サクセスフルエイジングの中核にあるということです。

環境要因で大事なのは「食事」と「運動」と「生きがい」です

 100歳で元気な人を見ると3つに集約されます。それは「食事」と「運動」と「生きがい」です。

 運動嫌いを運動好きにするのは至難の技ですが、食事が乱れている人をちゃんとした食事にするのは比較的簡単です。本もありますし、あとは危ないものを食べなければいいのです。そして、一番重要なのは「食べ過ぎるな」ということです。今日は食べ過ぎるとどうなるかという科学的証拠を皆さんに見てもらいます。

 アメリカでは、1980年代前半から、3つの研究所でアカゲザルを使って実証実験が行われています。ビタミンなどの栄養は保ちながら、カロリーだけを30%減らしたえさを与え、普通のえさを食べさせたサルと比較しています。 左がカロリー制限をしたサル、右は普通のえさを与えたサルです。2匹とも人間の年齢に換算すると、およそ70歳。
   
   しかし、カロリー制限したサルは毛並みにつやがあり、白髪や顔のしわも少なく、若々しく見えます。細胞レベルで見ても、カロリー制限したサルは活性酸素による損傷が少なく、動脈硬化になる危険性も小さかったのです。

 カロリーのあるものは何かというと、炭水化物、脂肪、タンパク質の3つです。成長期が終わってから、皆さんが余分に食べた分は、皮下脂肪と内臓脂肪に蓄えられます。自分の20〜25歳の体重を今の体重から引き算して下さい。その体重差が皮下脂肪と内臓脂肪に蓄えられたということです。
 

寿命は遺伝?それとも環境?

 実は、カルマンさんのご両親も長生きだったのです。父親は87歳、母親は93歳ですので、当時とすれば長寿の家系に生まれたということです。そうしますと、カルマンさんは長寿遺伝子を持っていたという話になる訳です。

 しかし、そんなカルマンさんでも、両親が決めた遺伝の部分は25%にしか過ぎないということが分かっています。これは双子の研究から分かったのですが、残りの75%は生まれてから決まる問題なのです。

 つまり、この25%は皆さんがこの世に生まれてきた瞬間に決められていて、逆立ちしても変えられない部分であり、残りの75%は今日の夜から変えられる部分です。この75%の要素というのは非常に大事になる訳で、私は環境要素が何かということを研究しています。

食べ過ぎを防ぐコツを覚えよう!


 
無理して食事量を減らすより、「4つのコツ」を参考に、食べ過ぎずに済むコツを覚えましょう。

 野菜というものはカロリーがありませんが、非常に重要なものです。その理由は、食物繊維、ビタミン、ミネラルが豊富だからです。
 

 まず、始めに野菜を食べるということです。つまり、野菜だけでお腹がいっぱいになれば、それ自身カロリー制限になります。また、食物繊維はスポンジのようなものだと考えてください。スポンジはいろいろの物を吸収し、コレステロール、油、添加物も吸収してくれます。しかし、最初に炭水化物とか油を食べると、数分で血中に入り、食物繊維は血中まで追いかけられませんので、順番を間違えると働けなくなります。

 次のポイントは、よく噛むということです。一口30回噛むことが必要ですが、外食では5回ぐらい噛むともう、食物が口の中に残っていないのです。皆さんは、家庭でしかこれを実践できないということになります。これがどうして重要かというと、咀嚼をすると満腹になりやすいということもありますが、最近の研究調査で、噛んでいる時は脳の前頭葉の血流が増えるということが分かりました。つまり、脳のアンチエイジングに良いということです。
 

 3つめは、朝食をちゃんと食べるということです。朝食を抜けばダイエットできると勘違いしている人が多いようですが、朝食を抜くと必ず太ります。

その理由は、インスリンというホルモンの作用によるものです。朝食を抜いている人や、朝、甘い物を食べる癖のある人は血糖が上昇し、それを元に戻すためのインスリンが出され、血糖を下げようとします。最近の「キレる子」というのは、血糖が急降下する時にキレています。それを避けるためには、血糖を急激に上げなければ良い訳で、野菜を先に食べれば上がりません。急激に上がらないから急激に下がらない、そうするとキレなくなります。
 

 最後は、飲み放題、食べ放題の店に入らないということです。自分の好きな物だけをとってしまうので、バイキンクも気をつけた方が良いです。

一番良いのは定食で、お昼だとお魚定食、これが一番無難です。また、丼物やご飯をお代わりする習慣はやめた方が良く、それは、おかずとご飯の比がくずれるからです。この比を一定に保っておかないとビタミンとかミネラルが不足してきます。

体のさびつきを予防するためには抗酸化作用がある植物性フィトケミカルを摂取することがポイント


 
野菜を食べると本当に病気を予防できるという話をします。

野菜の中には、フィトケミカルという植物の化学物質が入っています。ギリシャ語で、「植物由来の化学物質」という意味です。野菜の中には、5,000種類から1万種類のフィトケミカルが入っており、例えば、ブロッコリーの中には何と200種類のフィトケミカルがあると言われています。ブロッコリー入りのサラダをお昼に食べれば、1,000種類のフィトケミカルが一気に入ってくることになります。

 最近注目されているのは、ポリフェノールというものです。もともと、ボルドーの赤ワインをたくさん飲む地方の人は、肉料理を結構食べているにもかかわらず、心臓病の発症率が非常に低く、研究の対象になっていました。しかし、ポリフェノールの一種類で、赤ワインの成分であるレスベラトロールに秘密があるということが分かりました。

 日本茶の中にもエピガロカテキンガレート(EGCG)というものがありますが、非常に強い抗酸化能力があり、特に、動脈硬化の抑制などに強い作用をもっています。

アンチエイジングの料理は食材でほとんど決まる


 
今日は、皆さんがスーパーマーケットに行った時、どういう買い物をしたらよいかということを伝えておきたいと思います。

皆さんがアンチエイジングの料理を作りたいと考えた時、スーパーマーケットで50%勝負が決まると考えてください。あとの50%は、どういう風に調理するか、ということです。つまり、スーパーマーケットに行った時に何を買うかということが問題なのです。そのためには、どの作物、野菜が最もアンチエイジングの効果が高いかということを見た目やラベルなどで選ぶことが重要になります。

害虫が葉っぱに来ますが、葉っぱはこの害虫にきらいな味を食べさせます。そうしないと、この野菜はサバイブできません。農薬を使って害虫駆除すると、この野菜は害虫がきらいな味を作らなくても生きのびることができるので、農薬を使わない有機野菜の方がこの成分が高いということです。

また、紫外線によってDNA(遺伝子)が破壊されますので、葉には抗酸化作用の強い物質がためこまれます。したがって、紫外線の強い山地の方が、フィトケミカルの濃度が高いと考えてください。フィトケミカルとは、野菜の自己防衛本能で生まれる成分です。そのため、フィトケミカルは、より厳しい自然環境で育った野菜に多く含まれています。その見分け方は、トマトの場合、より赤いものが抗酸化成分がたくさんあり、より健康的なトマトになります。フィトケミカルは、主に野菜の色素成分で、そのため色の濃い野菜の方が、より多くのフィトケミカルを含んでいるということです。

さらに、フィトケミカルの効果を高めるには、その食べ方にもポイントがあります。一種類のフィトケミカルだけをたくさん食べても効果はそれほど期待されません。脳に行くものもあれば、目に行くものもあるので、より多くの色を食べることを進めています。その目安となるものが七色で、一日トータルで、より多くの野菜や果物を取るように心掛けしましょう。

野菜または果物ジュースで認知症予防


 
シアトルに住んでいる日系人1,800人に16年間、アルツハイマー病の追跡調査をしました。調査の結果、週3回以上野菜ジュースを飲んでいた人が、週1回未満の人に比べて、アルツハイマー病の発症する危険率が76%も低くなっているということが分かりました。

 それでは、何歳から野菜ジュースを毎日飲んだらいいかということですが、アルツハイマー病は、70〜75歳に物忘れの症状が始まります。しかし、脳の中の変化というのは、50〜55歳で始まっています。ということは、50歳になったら日本国民全員が野菜ジュースを毎日飲めばいいということです。これは、30年後の医療費を考えれば、そんなに高くない投資であり、ぜひやるべきだと、日本政府に提案しているわけです。

 確かに、コンビニへ行くと野菜ジュースを売っています。よく見ると、「一日分の野菜」と書いてありますが、これはあまり期待できません。ぜひ自分で作ってください。それもジューサーではなく、ミキサーで作ってください。その理由は、食物繊維で、皮にアンチエイジングの成分があるので、なるべく皮ごとミキサーに入れることが重要なのです。農薬がついている場合はよく洗ってください。

生涯現役で探求一筋


 三浦敬三さんは、47年前から毎年、立山でスキーシーズンを締めくくってきました。リフトもない自然の中で、自らの体力を確認するのです。「一日でも長く生きて、一回でも多く滑りたい」と、100歳を越えてもなお道を究めようとする敬三さんです。

 100歳の時、敬三さんの骨密度を量りましたら、腕は100歳相応で、上半身はあまりトレーニングされていなかったということが分かりましたが、なんと、下半身の大腿は60歳相応の数値がでました。ということは、一人の人間の体の中で、40歳もエイジングに温度差があったということが分かりました。また、食事だけでは骨粗症予防ができないということ、現役で使っているボディパーツは60歳から年を取らないということも分かってきました。

 また、100歳になってもトレーニングをすると、脂肪細胞がシェイプアップしてアディポネクチンをたくさん分泌されます。敬三さんの動脈硬化の検査結果は、100歳相当に動脈硬化をおこしていましたが大丈夫だということです。動脈硬化というのは動脈の壁の中にコレステロールが溜って、鉛の管のようになってしまうことですが、血流が途絶えなければ、パフォーマンスは出せるということです。ちなみに、コレステロールが原因で、血管の内側に血栓というのができると心筋梗塞をおこしたり、脳卒中をおこしたりする訳です。

冒険 若返りのレシピ


 心が病んでいる人に、どんなアンチエイジングのプログラムが良いか、プロスキーヤーの三浦豪太さんとの「10歳若返る アンチエイジング・キャンプ」の取り組みを紹介したいと思います。

 このアンチエイジング・キャンプは、2泊3日で10歳若返るというツアーです。大自然の魅力を感じてもらうために、私たちは参加者に「スノーシュー」を履いて雪の上を歩いてもらいました。参加者は、東京、京都、広島など、普段ほとんど雪の降らない地方に住む人たちで、平均年齢が60歳、最高齢は78歳で、降り続ける雪を見て「雪崩が起きないかな、遭難しないかな」と心配していましたが、当日、スノーシューを履いて踏み出すと、子供に戻ったような笑顔で雪景色へ溶け込んでいきました。

 「実感として10歳若返る」のがキャンプの目標でしたが、終了後の参加者に聞いてみると、「10歳になった気分」という答えが返ってきました。つまり、この時は50歳の人が40歳になったという回答ではなく、自分は小学生に戻ったというふうに全員が答えたということです。

 このように、若返りのレシピは冒険だというのが私たちの考え方です。

おわりに


 今からでも遅くありません。今日話した75%は「ちりも積もれば山となる」、こういう話から成り立っているものだと考えてください。今日の夕食から実践できることを1つでもすれば、それが必ず効果として現れます。実践することが大変重要です。勉強しただけで終わってしまったら、それは無意味だということです。30回噛むこととか、野菜から食べるとか、皆さんに実践可能なことが今日の講演の中で展開されたと思いますので、今日から実践してみることが大事だと思います。

 ご静聴どうもありがとうございました。