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教育の中の水泳-連載14回

映画に描かれた水泳―「河童大将」より―

富山大学芸術文化学部教授 立浪 勝

 昭和18年、山本五十六連合艦隊司令長官の戦死、アッシ島の玉砕と続き、戦局が悪化してきます。「英米憎し」の心構えを育てることから、欧米的な風潮を排除する動きが強くなり検閲が進みます。特に、人々の娯楽の中心であった映画に上映禁止が相次ぎます。理由は、「厭戦的気分を起こさせる時局逆行的映画」とか「自由主義的風景を描く映画」とかでした。そのような中で、昭和19年、嵐寛寿郎主演の「河童大将」が上映されました。
 映画「河童大将」は、特に戦意高揚につながる映画だと思いません。むしろ、恋も描かれた娯楽映画で、時局的に上映禁止の対象となる内容です。ではなぜ上映できたのでしょうか。そこには厳しい検閲を逃れる、映画人のしたたかな考えがあったと推察しています。
 昭和18年3月17日の読売新聞に、「泳げぬ兵隊を一掃」という記事が掲載されています。国民皆泳運動(連載8参照)の宣伝になる水泳時代劇だとうまく説明して、上映許可を得たものと思います。
河童大将 ビデオジャケット 河童大将	発売元:角川映画 角川大映通販クラブ 04−7175−2563 価格:¥6,825(税込)	VHS発売中 この映画には、伝統的な古式泳法である、御前泳ぎ・太刀持ち泳ぎ・甲冑泳ぎなどが登場します。特に御前泳ぎは見事なもので、その美しさに感動しました。
 「河童大将」のあらすじは、『尼子氏の足軽頭である主人公荒浪碇之助とライバルである早川鮎之助は、日頃鍛えた河童隊を二隊に分け、湖水を泳いで毛利軍を奇襲します。荒浪隊は扇り足使用の日本式平泳、早川隊はクロール似の早抜き手で進みます。早川隊は、泳ぎは早いが水しぶきの音で発見され攻撃を受けます。一方、荒浪隊は、泳ぎは遅いが静かに進むので発見されず、奇襲攻撃は成功し勝利に導きます』というものです。
 映画の内容は、太平洋戦争時、長く静かに泳ぐ平泳ぎ(伸し)が推奨され、学校教育では「早く泳ぐことは何の役にも立たん、ゆっくり長く泳げるのが一番いい」と指導されていたこと(連載3参照)を裏付けています。同時に、当時強力に進められていた米英的なものを排除する対象に、クロールに似た早抜き手が選ばれたと思われます。
 クロール隊は役に立たず、平泳(伸し)隊が大勝利に貢献するという設定だと考えれば、日本が米英より優れていることを強調している映画と考えられます。また、荒浪碇之助が、「勝とうと思えばいつでも勝てる」「負けて勝っているのだ」と語る場面が何度かあります。日本軍の敗北続きを、最後に勝つための作戦であることを印象付けようとする意図も見られます。
 しかし、「河童大将」は、娯楽映画としての魅力をたっぷりと備えています。一時ではありますが、人々は思い切り笑い、悲恋に涙し、主人公の活躍場面では拍手を送ったと思います。上映禁止が続出し、映画の灯が消えようとする状況の中で、国民皆泳運動を逆手に取り、水泳時代劇という見事な娯楽映画を創り上げた映画人の勇気に感動します。

 

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