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HOME＞教育の中の水泳/連載20 富山大学芸術文化学部教授　立浪　勝 　水泳には、競泳の他に飛び込み・シンクロナイズドスイミング・オープンウォータ・日本泳法・水球・救助法があります。北京オリンピックでは北島選手の活躍で競泳が特に注目を集めましたが、私の最大の興味と願いは、水球でハンガリーがシドニー、アテネに続いて３連覇を果たすことでした。なぜなら、私は水球が大好きで、常に世界の水球をリードしてきたハンガリーには深い思い入れがあるからなのです。 　日本の水球はアジア予選で敗れたので北京には出場できませんでした。そのためか、水球はまったくテレビで見る機会がなく、新聞だけが頼りでした。 　水球は、第２回パリオリンピック大会から競技種目として採用されました。しかも、団体競技としては初種目です。国際的には Ｗａｔｅｒ Ｐｏｌｏ と呼び、７人１チームで行われる英国発祥のスポーツです。ヨーロッパでは水球は人気スポーツで、国技または国技並みの扱いをしている国もあります。ハンガリーはその一つです。 　ハンガリーは水球で何度も金メダルを獲得しています。特にシドニー、アテネと２連覇しており、北京でも期待通り優勝して見事３連覇を果たしました。そのハンガリー水球を見事に表現した映画があります。昨年日本で上映された『君の涙ドナウに流れ ハンガリー１９５６』です。 　この映画は現役のハンガリー水球選手が出演し、メルボルンオリンピックでの「ハンガリー対ソ連」戦を見事に再現し、水球のすばらしさを銀幕で世界に示してくれました。ぜひ多くの人に見てほしい映画です。今年６月にＤＶＤが発売され、容易に手に入ります。 　『君の涙ドナウに流れ ハンガリー１９５６』の舞台は、ハンガリーの首都ブタベストです。主人公カルチは水球選手で、その実績からハンガリーで様々な特権を与えられた大スターです。１９５６年、自由と民主主義を求め、ハンガリー市民が蜂起しますが、ソ連軍の侵入によって弾圧されます。カルチは、当初政治的な動きには関心を示さずメルボルンオリンピックを目指し水球に打ち込みます。ある日、自由を求める戦いに学生の参加を呼びかけ、壇上で演説する女性に一目ぼれ、やがて二人は恋に落ちます。カルチの母親は、「息子を巻き込まないでくれ」と女性に嘆願します。仲間からは「代表選手を外される」と忠告されますが、「オリンピックよりも祖国」と、敢然と戦いに加わります。やがて、ソ連のたくらみとも知らず、一時的勝利に歓喜する中、カルチは不安を抱えつつも、メルボルンへと向かいます。 　メルボルンオリンピックでは、水球の準決勝で「ハンガリー対ソ連」戦が行われます。水球史上最大のゲームと呼ばれる流血戦でしたが、見事カルチを含むハンガリーチームが勝ちます。祖国の人々の自由を求める願いを圧倒的軍事力で奪おうとするソ連を、オリンピックの場で打ち破り、ハンガリーはこの大会で金メダルに輝きます。 　再びハンガリーに侵攻したソ連は、徹底的に運動を弾圧します。多くの死傷者だけでなく、２００人を越える市民が死刑に処せられるという悲劇的な結末を迎え、自由への願いは踏み躙られました。主人公カルチの恋人が刑場へと向かうシーンでこの映画は終わります。 　歴史映画で水球選手が主人公となり、水球が主要な背景となったことはまずありません。この映画は、ハンガリー動乱と呼ばれ、長く反革命的運動と自国で評価されていた歴史的事実を、ソ連崩壊後にやっと明らかにしたのです。ハンガリー国籍の監督がこの映画を作るに当たり、主人公を水球選手にした意味はよくわかります。ハンガリーにとって水球は、過去もそしてこれからもずっと希望であり続けるに違いないからなのです 　私の友人マリアは、１９５６年、１１歳でハンガリーを家族と共に脱出しました。現在、同じ境遇でハンガリーを脱出した夫のマイケルさんとカナダで幸せに暮らしています。水球の話をすると、うれしくなるほど自慢してくれます。この映画からは、自由を奪われた人々の苦しみが痛いほど伝わってきます。同時に、スポーツが人々を勇気づけ、生きる力にもなることを信じることができます。   ページの先頭へ戻る▲

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