
呼吸筋は骨格筋の一種で、横紋筋であるからトレーニングをすれば鍛えられるはずである。呼吸筋の筋力を比較すると、息を吸うための吸気筋(外肋間筋と横隔膜)は、吐くための呼気筋(内肋間筋と横隔膜)よりも約3倍の収縮力を示す。呼気筋の中でも横隔膜は特に大きな力を発揮し、1回換気量の4分の3を担っている。横隔膜が疲れてくると膜が平坦化し、長さが短くなるので収縮力が低下することになる。その結果、肺を充分に縮小できず、肺胞の中に残る空気(残器量)が増加して換気不全になり、酸素不足に陥ることになる。したがって、呼吸筋のトレーニングでは、腹式呼吸を意識的におこなうことで横隔膜を鍛えることが最重要になる。

歌う時の呼吸運動の多くは腹式呼吸で、東洋的セルフコントロール法(座禅、気功、ヨーガ)と通じるところがある。そこでカラオケで歌うことは、腹式呼吸法による呼吸筋のトレーニングになる。また、歌うことによる深い呼吸は、酸素を体内に取り込み、ホルモン分泌を盛んにし、精神的な安定を促す効果もある。実際、精神的な安定・鎮静を示すα波は、カラオケ経験者の方が未経験者より高い比率で出現するという報告がある。歌っている最中の心拍間隔や血圧変動の測定からは、カラオケが自律神経機能のバランスをよくし、ストレス解消効果のあることが証明されている。カラオケによる自律神経機能の改善と正常化効果が実証されたことから、今後は歌うことを治療法の一つに位置付けることになるだろう。高齢時代を迎えて、最近、自律神経の機能不全による高血圧、腰痛、ストレス、循環系機能の低下などに対する、生活の中での運動処方の必要が唱えられており、カラオケはその処方の一つとして位置付けられる。今後、病院やヘルスクラブで利用される機会が増えていくであろう。
歌唱療法では、よい雰囲気、よい音質のカラオケシステムで、気持ち良く歌うことが大切である。歌い慣れれば歌い慣れるほど、健康効果は高まるようである。なお歌唱は一時的に血圧を高めるので、とくに血圧の高い人は、力みのある曲を避けるようにすべきである。カラオケは、いまや日本国民、いや全世界の市民的な文化である。人間はその長い歴史の中で、楽しいにつけ苦しいにつけ歌い続けてきた。健康法の一つとして、暮らしの中に積極的にカラオケを取り入れ、明るく積極的に生きるための糧としたいものである。
著者 富山県国際健康プラザ・健康スタジアム館長 永田 晟 (呼吸の奥義より)
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