運動中の腹痛の原因は十分にはわかっていないのですが、食事の時間、内容、あるいは胃や腸内の大量のガス貯留などが関与すると考えられています。運動中に起こる側腹部痛の70%は食後1時間以内に運動を開始したときに起こるといいます。食後から運動開始までの時間が短いと、胃の中に大量の内容物があり、痛みを起こす原因になります。食直後の運動により腹痛が起こる機序としては、次のようなものが考えられています。
(1)胃腸への血液配分の減少
食事をとった後は胃腸が消化のために多くの血液を必要とします。しかし、激しい運動をすると筋肉に多くの血液が
とられてしまい、胃腸が酸素不足になるのです。
(2)胃腸のけん引痛
胃に大量の内容物を残したまま運動すると、胃は上下左右に揺さぶられて動き、局所的なけん引や血流不足による
痛みを生じることがあります。
(3)その他
横隔膜のけいれん、肝臓の充血、下痢、呼吸筋の疲労などが原因で腹痛が起こることもあります。ラストスパートの時に
必ず腹痛が起こる、というような心理的な要因も考えられています。
《処置》
マラソンなどの長距離走中に腹痛が起こったときは、スピードを落とすか、歩くようにします。大きく深呼吸したり、体を前に曲げて、痛むところをマッサージしたりすると、痛みが解消して走り続けられることがあります。 |
《予防》
運動前には準備運動を十分にしておき、特に腹部の前後、左右、回転などの動作に時間をかけるようにします。それ以外にも、運動中に腹痛を起こしやすい人は次のような注意が必要です。
(1)食後すぐの激しい運動は避ける。
(2)消化の良い食物をとる。
イモ類・ゴボウなどはせんい質が多く、腸内ガスが多くなるため、あまりとらないようにする。
(3)牛乳や生卵で下痢を起こしやすい人は、運動前には食べないようにする。
(4)炭酸飲料は控える。
(5)運動前には排便をすませておく。 |
《鑑別疾患》
痛みがおさまらないときには、急性虫垂炎、胆石、尿管結石など、急性腹症といわれるものの可能性も否定できません。症状によっては病院受診、救急処置の必要性もあります。下図は、痛みを起こす代表的な病因とその痛みの場所を示しています。 |

図1 痛みを起こす代表的な病因とその痛みの場所
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